詩情展覧会より


カンバスの中の不思議な空間

画家 副島孝治先生

 

 臨場感を表現する

 「一つのモチーフを絵にするまでには、
自分の体の中で消化されないと。うん
と熟れれば熟れるほどいい作品に仕上
がります。だから、短期間しか滞在し
ない外国のサーカスは、消化不良にな
ってしまい、なかなか描けないんです」
と語るのは、二十年間、サーカスを描
き続けている副島孝治さん。


馬をモチーフに
新しいサーカスの世界を
描きたい」と語る副島先生
(アトリエにて)

 副島さんのアトリエには、たくさん
の製作途中の絵が、次の順番を待って
いるかのように置かれている。そのな
かで、一五〇号と畳一畳ほどもある大
きな絵が目につく。今年の十月、二紀
展に出品した作品だ
(表紙の絵、"飛台
"栗原賞受賞)
。カンバス一面に描か
れたサーカス。褐色の色調の中に、華
やかさと緊張が漲っている。

 「今の画風になったのはここ十年くら
いなんですよ。サーカスを見ていて、
どういう空間の中に描くのがいいか、
と模索し続けた結論が、この地塗りの
色調と空間表現なんです」

 下地づくりの地塗りは、乾いては塗
る作業が十五回は繰り返される。最近
流行している即乾性アクリル絵の具は
便利ではあるが、油絵の具を重ね合わ
せると剥れ落ちる危険性があるので使
用しない。自分の絵の寿命を思えば、
五〇〇年の歴史のある油絵の具を単独
で使うという。この姿勢が副島さんの
重厚な色調の秘訣ではないだろうか。


●プロフィール●
一九三五年、福岡県生まれ。六二年、二紀展
「女」初入選、以来毎年出品。七四年「空中飛
行」でサーカスの空中芸をモチーフに描き、
現在に至る。二紀展・田村賞、会員優賞など
多数受賞。現在、二紀会委員、サーカス文化
の会会員。

 サーカスをモチーフに描いている人
は他にもいるが、こんなにも長い間描
き続けている人はいない。副島さんが
サーカスの、特に空中芸を描くように
なったきっかけは何だったのだろう。
「初めの頃は芥川竜之介の『蜘蛛の糸』
に感銘して、人間が一本の糸を天国に
向かって登っていく像を描いていたん
です。そんなある日、偶然に見にいっ
たサーカスで、空中芸と蜘蛛の糸の像
が重なり合って見えたんです。モチー
フとしては静から動ですが、どちらも

 

 

空間の中に人物がいるという点で、す
んなりサーカスの世界に入っていけた
んです」

 サーカスの中でも、特に空中芸はス
ピードが速く、躍動感にあふれている。
しかし、写真のように一瞬一瞬をデッ
サンで捉えるのは難しい。副島さんは
何よりも臨場感を大切にしている。そ
のための十分な取材は欠かさない。何
度もサーカスを見、時には空中ブラン
コの高い飛び台にも登るそうだ。

 新たなる挑戦

   一日中サーカス小屋で過ごし、どっ
ぷり漬った後、じっくりとアトリエで
描き始める。しかし、描いている途中
でもサーカスを見に地方まで追いかけ
ることもあるとか。

「やはりイメージが弱くなると、もう
一度感激しに行くんです。どんなに写
真や資料があっても、三ヵ月くらいす
るとイメージが薄くなってしまうんで


空中芸の一つ、昔懐かしい鉄線渡りの芸をモチーフに  

すね。すると絵も写真みたいにペタン
とした感じになってしまうんです」
画家は、こまめに取材に行くフット
ワークの良さが必要だと話す。そんな
副島さんにとって最近のサーカスはど
う映っているのだろう。

「サーカスは楽しいことばかりです。
実際にはいろいろ大変な部分もあると
思いますが、描き手としては楽しい面
しか見ていません。ただファンとして
見た場合、芸の面で昔ほど進歩はない
と思います。面倒を避け、繰り返し簡
単にできる芸ばかりになって。昔なが
らの芸を守る姿勢がない」と、副島さ
んは日本のサーカスの未来を心配する。

サーカスを愛し、これからも描き続け
るという副島さんに、今後の豊富をお
聞きした。

「ずーっとサーカスを見続けていると、
空中芸以外にもいろんな芸が好きにな
ってくるんです。一つは動きの早いオ
ートバイの"アイアンボール"。そして
もう一つは、馬が前足を上げている姿。
特に馬は今後のテーマにしていこうと
思っています。ただ、日本のサーカス
には残念なことに馬が一頭もいないん
です。おかげでモンテカルロサーカス
が来た時は、十五回も見に行ったんで
すよ」と笑った。

 

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